1948_kidoizumi.JPG

時代に流されない。自然の力をひきだす、酒造り。
Kidoizumi_Sake Brewey

前編
ブレない酒造りを凛と貫く。いすみに宿る蔵魂。

Soul of Sake Brewery, Kidoizumi

中編  蔵の歴史に人あり。杜氏の色がにじむ、酒造りの奥深さ。

木戸泉の心棒、高温山廃酛仕込み。

「AFS」(※1)を始め、濃醇で多酸、コクと幅のある味わいに特徴のある日本酒の蔵元、木戸泉酒造は、
千葉県は九十九里を臨む漁師町「いすみ」の地に、「時代に流されない酒造り」でキラリと存在感を放っている。

鈍色の赤レンガの煙突がそびえる酒蔵。ひとたび足を踏み入れると、
えも言われぬ発酵の香りに包まれる。外界とは違う何か、が蔵を満たしていることを肌で感じる。

創業は明治12年だが、現在の木戸泉を特徴づける大きな転換期を迎えたのが昭和31年。
先代3代目蔵元・荘司勇氏の決断による醸造法の転換、「高温山廃酛」仕込みへの切り替えだ。
当時、防腐剤として日本酒に一般的に使われていたサルチル酸の危険性にいち早く気づいて、
「サルチル酸の使用禁止」も打ち出した。
時代は高度成長期へと向かい、大量生産が必須の世。明治以降に開発された短期間で安定した醸造が可能な
速醸法と、調味液で量を増す三増酒が大衆のニーズを賄っていた時代に、防腐剤に頼らずとも長期間貯蔵できる
酒造りに取り組んだのだ。

「今から思えば、大変勇気のいった決断だったと思いますよ」
荘司社長は、当時のことを振り返る。

2108_kidoizumi.JPG

漁港のある、千葉県いすみ市。海風が吹くこの町の風土は、印象深い濃厚な酒によく合う。

2128_kidoizumi.JPG

木戸泉の銘柄「鐵の道」の由来となった、地元の人々に愛されるローカル線。静かに時間が流れる。

2197_kidoizumi.JPG

歴史を感じさせる、レンガづくりの酒蔵の煙突。

3274_kidoizumi.JPG

ヒンヤリと静謐な蔵で、密やかに繰り広げられる発酵と熟成。

2780_kidoizumi.JPG

しぼりたての無濾過生原酒が、誕生した瞬間。

148.JPG

泡の立ち具合で発酵を確かめる木戸泉酒造四代目。その目は厳しく、愛情深い。

149.JPG

しぼりたての味を経験と舌で吟味。五感を研ぎすませて。

時が醸す古酒のロマンは、この蔵から始まった。


高温山廃酛(モト)。
先代が当時の技術顧問であった古川氏とともに開発し、永年頑に守り続けている酒母造り。

先代を「長期間保存してもヘタらない酒造り」へ駆り立てたもうひとつのきっかけが、
渡航先の海外で口にした日本酒の味の劣化だった。
この先、日本酒が国外で認められるためにも、船便による長期輸送に耐える酒づくりを目指したという。

高温山廃酛への切り替えから約10年。
失敗を重ねながらも昭和40年に長期熟成酒の製造に成功。
日本酒も古酒として熟成を重ねることができるようになった。

木戸泉の蔵には、5年10年、一番古いもので40年を超す古酒が今も熟成を重ねている。
開発当時の酒税法では、製造後一年を過ぎると等級も価格も落ちてしまう日本酒において、古酒造りを念頭に
醸造法の研究に賭けた、先代の覚悟のほどに頭が下がる。

「探究心旺盛な研究肌。こう、と思ったら一途な人でしたね。」と4代目文雄社長は父でもある先代を忍ぶ。

昭和46年に9年間熟成した「オールド木戸泉」(昭和51年に古今と改名)を発売、瞬く間に売れてしまう。
「木戸泉は日本でいち早く日本酒の長期熟成酒を販売した酒蔵の一つです。」
古酒づくりを先駆けた蔵としての自負がある。

2600_kidoizumi.JPG

熟成を重ね続ける古酒。どの年代にも思い入れと歴史がある。

3018_kidoizumi.JPG

バックライトを透かして検品。永年酒造りと向き合ってきた、確かな目で。

152.JPG

熟成古酒。年月が染める琥珀色に、味の深まりを想う。

自然醸造による「良き酒」の追求。


健康や安全をテーマに掲げて先代が挑んだ「良き酒づくり」。
昭和42年には、添加物はもちろん、原料となる米も農薬や化学肥料を一切使わない
自然農法米を100%使用した、自然醸造酒(現在の銘柄名「木戸泉 自然舞」)の製造も始めている。

先代の意思を受け継ぎ、迷うことなく木戸泉の酒造りを率いてきた4代目。
だが、子どもの頃は、酔っぱらいを目にする機会も多く、
「酒はキチガイ水だと思って大嫌いだったし20歳までは蔵を継ぐ気もなかった」そうだ。
学生時代に酒の味を知り、「さて、親父はどんな酒を造っているのかなと興味が湧いた」ところで、
耳にしたのが「木戸泉の酒は飲んでも悪酔いしない」という言葉。

「調味薬や防腐剤などの添加物を一切使わない酒だったからだと今でも確信している」と語る4代目。
「親父は、なかなか良い酒を造っているんだな」と、
こだわりを継いでゆきたいと思った。

自ら、自然農法による米造りを10年にわたり体験した4代目は
「土の力だけで作物は十分に育つということを実感」。

現在、木戸泉が扱う酒米の約20〜25%は自然農法米だが、「いずれは全て自然農法米だけで、というのが理想です」。

0111_kidoizumi.JPG

生きている醪(もろみ)の泡は発酵の証。

2918_kidoizumi.JPG

しぼりたての生原酒。旨味も酸もそのまま、無垢に。

時流に流されない「旨き酒」

蔵には蔵の味がある。
木戸泉の酒の多くは、濃醇で多酸。しっかりしたコクとふくらみのあるボディ、
乳酸由来の酸味が食欲をそそる食中酒として呑み飽きない。

味を決定付ける最大要因は蔵のビジョン、どのような醸造法で、どこの米を原料にどんな酒を造るのか、
すなわち蔵元の意思。それを、杜氏がどれだけ忠実に再現できるか、
つまりは「人」だ。

「全ての酒を、高温山廃」で「旨き良き酒」を造るという先代の決意を粛々と受け継ぎ、
変わらぬ蔵の味で木戸泉ファンを逃さない。

木戸泉では吟醸酒は造らない。
酒の雑味を減らすため米の50%を削り精米する吟醸酒に対し、木戸泉が使用する米の精米歩合は60〜65%。
日本酒においては雑味ともとられがちな酸が、口中に広がり変化するさまを楽しみながら味わう酒造りを
信条としている。

淡麗辛口のスイスイ呑めるきれいな酒とは対照的な純米を基調とした本格派。
木戸泉の銘柄には、無濾過、生原酒など醪をしぼったままの酒本来の味わいを楽しめる銘柄も多く、人気がある。

2237_kidoizumi.JPG

昔ながらのたたずまいを残す、つり天井の仕込み蔵。

2574_kidoizumi.JPG

毎回湯をかけ丁寧に洗う。米をとぐための木桶は、代々伝わる大切な道具。

0034_kidoizumi.JPG

造り酒屋のシンボル。どっしりと、直径2メートルはある杉玉が、人々を迎える。

159.JPG

木戸泉の歴史を物語る3大銘柄酒。「自然舞」「アフス」「純米醍醐」。

用語解説

※1 AFS(アフス)・・・昭和47年に、高温山廃一段仕込みという独自手法で開発された、洋食にも合う
濃厚多酸な食中酒。AFSは開発に関わった3人のイニシャルを続けたもの。