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野菜と米のおいしさ極め人 メリーファーム
Merry Farm

前編 おいしさを追い求めたら、伝統野菜にたどり着きました。

Source of deliciousness and Traditional Vegetables of Japan

後編  夢は叶えてからが面白い。おいしさの答えは、もっと先にある。

何を作るか?の最終選考基準は、おいしさ。


手のひらに差し出されたのは食用のほおずき。
薄皮から覗くオレンジ色の実をほおばると、プチっとはじける果汁とともに、体験したことのない艶かしくも
甘酸っぱい香りが口中に広がる。
「ジャムやソースにしてもおいしいですよ。」
八ヶ岳のふもとにあるメリーファームでは、農園主の泉 渥志さんが、食用ほおずきをはじめとしたヨーロッパ
の伝統野菜、ハバネロやバターナッツなど日本ではあまりお目にかかることのできない野菜を、年間60種類
近く無農薬無化学肥料で栽培している。
無農薬栽培にこだわるのは「農薬の有無が野菜の味を左右する」からだ。
「おいしい野菜づくり」をテーマに掲げるメリーファームにとって、無農薬栽培はゆずれない。

埋もれたおいしい野菜を見つけ出すことにも力を注ぐ。
「毎年、幾種類もの新しい野菜を育てますが、その中で定番野菜として残るのは1種類がいいところ」という。
最終的な選考基準はおいしさだ。気がつけば、メリーファームで栽培する野菜のほとんどが在来種であり、
伝統野菜として受け継がれてきたものばかりとなった。

「昔の野菜を掘り起こすと、つぎつぎと、おいしい野菜に出会えますよ」
と泉さんは目を輝かせる。

近頃は、京野菜の万願寺や霜降りインゲンなど、国内の伝統野菜が畑を占める割合が高くなった。
泉さんのおいしいものへの探究心は全国津々浦々を巡り、飽く事が無い。

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とれたての食用ほおずき。可愛らしい姿に思わず見とれ、口に含めばその魅惑的な味に夢中になる。

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ヨーロッパでは、野菜は香りと酸味のバランスが美味しさの決めてだそう。泉さんもそのスタイルを受けつぎ、香りと酸味を大切にしている。

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無農薬でつくる泉さんの野菜畑では、虫が楽しそうに遊んでいる。カエルもお目見え。

のびのび育て、個性を引き出す、誘導栽培。


泉さんの畑は、八ヶ岳南麓のなだらかな斜面に沿って、標高の異なる三地域に点在する。それぞれ、土質も
気温も風の通りや水はけ具合も異なるが故に、多種類の野菜を栽培できる。

例えば、伝統野菜など、同じ品種であっても、育まれてきた土地によって、適した栽培環境は異なってくる。
より、その野菜本来の味を再現できるよう、育まれてきた土地の条件に近い場所や、栽培法、収穫時期などを
試行錯誤しながら選定するのが泉さんの仕事だ。
「なるべく、野菜がこうありたい!という方向に成長できるよう、仕組んであげることでおいしい野菜が作れます。」
どう成長するかを決めるのは野菜。人間の都合を押し付けない誘導栽培、と泉さんは語る。

現在、市場を占めている野菜の多くは、効率よく収量を上げ、流通に適した形状に揃うなど、人間の都合を
優先した改良がなされている。
一方、土地に古くから伝わる在来種は個性豊な分、大きさや形も不揃いで、栽培法や収穫のタイミングもデリ
ケートなため、大量生産には向かない。
それでも、儲け優先をしのぐおいしさ故に、受け継がれ、土地に根付く。
在来種には改良を加えていない野菜本来のおいしさが残っている。

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心地良さそうに風に揺れる野菜たちを見守る。

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奈良の伝統野菜、紫とうがらし。マイルドな甘みのとうがらしに、可憐な花が咲く。

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朝早く、ひんやりした空気の中で野菜を収穫する。ひとつひとつ野菜の状態をチェックしながら。

[ おいしい野菜を作りたい ] 一心で、農業の道へ。


「小学生の頃から趣味は土いじり、根っこが大好きな少年だった」泉さんは、
長年の夢を実現してここ、八ヶ岳の南山麓にメリーファームを立ち上げた。

先んじて、ここに別荘があり毎週末通っては菜園をたしなんでいた勤め人時代、農業を始めるならここで、と
決めていた。
八ヶ岳に繋がるなだらかのな稜線が、子どもの頃毎年祖父母と過ごした富士山麓の風景と似ており、どこか
郷愁を覚える土地だった。

年を重ねるごとに、自制していたモノ作りへの渇望があふれ出る。
「ああ、思いっきり畑仕事をしてみたい!」
思いが運を引き寄せ、休耕田となっていた現在の農地を買わないかと持ちかけられた。
新規就農には、地域の農業委員会に、農業を営むだけの計画や能力、資本がきちんと備わっているかを判断
してもらい許可を得なければならないというハードルがある。
泉さんの本気が伝わり許可が降り、「おいしい野菜作り」を目標にかかげ、農家としてスタートを切ることが
できた。

野菜は、ヨーロッパの三ツ星レストランのシェフが料理するのを見て以来、イタリア野菜と決めていた。
地元の食材や食文化を大切にするイタリア発祥のスローフードな考え方にも共感を覚え、ヨーロッパの在来種を
中心に、種を取り寄せ栽培した。
最近は、京野菜の万願寺や霜降りインゲンなど、国内の伝統野菜が、畑を占める割合が高くなっている。
泉さんの「おいしさ」への探究心は、全国津々浦々に及び、飽く事がない。

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畑から見える富士山。山々に囲まれ、山から湧き出る水も豊富な環境で、のびのびと野菜が育つ。

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一般的な野菜も無農薬で栽培している。瑞々しく立派な大根。

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とれたてのヨーロッパ原産の洋ナス。泉さんにとって思い入れのある野菜のひとつだ。

岩の上にも3年目からが、面白くなる。

就農したての頃、体力に自身はあったが、本格的な農作業は初めてのことで体がついていかない。
良かれと長靴を履いた野良仕事で、両足の爪が全て死んだこともある。地元農家の先輩に地下足袋を勧められ、
履いてその機能性に脱帽した。

「1年目はひたすら辛い。でも、3年目でやっと面白くなってくる」
という農業は、いまだに毎日が発見の連続と言う。
工夫と経験で次第に作業効率はあがり、体も見違えるほど頑健になった。
日焼けした顔に夏は麦ワラ、冬はボルサリーノの帽子といったお気に入りの農作業スタイルも板についた。

「今が人生で一番やりたいことをできている。これからが勝負」。
夢をあきらめなかったからこその今がある。
おいしい野菜作り、という唯一のテーマを掲げたメリーファームの、まさに、これからが正念場だ。

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麦わら帽子がよく似合う泉さん。つばの間から、充実した眩しい笑顔がのぞく。

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駱駝の皮で作った道具入れ。大事な仕事道具だ。

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子供の頃からの夢を実現できた畑。